【2010年度の総会報告】

ものがたるとは

●見世物小屋の呼び込み口上とも地下の根では深く繋がりながらも、なかなか普段には聴く機会のない説教節(※)、今回は説教節を取り上げ、初めて聴かれる方を主体に説教節政太夫氏に実演を交えた懇切丁寧な解説をしていただき、もっとも代表的な一段「小栗判官、矢取りの段」を迫真の三味線弾き語りで演じていただきました。また早稲田大学構内という見世物学会創設に於きましても、また説教節に於きましても初代若松若太夫(近代説教節の再興者)が生涯最後の公演を行った由縁ある地での総会となりました。
政太夫氏の言うように、ものがたるとは主人公の性格や感情の起伏、その場所の情景、季節などが映画を見ているように心の中に浮かび上がらせること。その物語の現場に立ち会っているように聞き手をさせること、という観点では、ほとんどの方が芝居を見ているような、歌舞伎を見ているような物語の情景を心の中に思い浮かばれたのではないでしょうか。

事務局 大谷 信太郎

※事務局註『説教節』という表記は『説経節』の誤りであるという考え方もあるようですが、江戸時代は仮名であらわされることも多く、あまり厳密ではなかったようです。初代若松若太夫は『教』を使っていたようです。

シンプルな仕組みの大衆芸能

●平成22年11月28日(日)、早稲田大学小野講堂において、第12回見世物学会総会が開催されました。平成21年度の会計報告など議事のあと、特別講演会『説経節』を開催。日本の“語り物”の源流“説経節”を現代に伝える説経節政太夫氏をお招きし、本学会会長田之倉稔、理事長西村太吉との対談の形で説経節の魅力をさぐりました。鎌倉末期に成立したとされるこの芸能がたどった流行と衰退と再興の歴史、三味線による伴奏の導入、江戸末期の薩摩派、明治期の若松派といった流派の特徴などなど、ときおり実演を交えながら詳しく話していただきました。明治期に収録された若松若大夫の貴重な音源は非常に興味深いもの。政太夫氏の演奏による、現代の私たちにわかりやすい言葉で書き直された“おぐり”や新作の説経節は、シンプルな仕組みの芸能ゆえの強さと、伝統をふまえながらすこしづつ進化をとげて生き続けてきた大衆芸能としての“説経節”のしなやかさと可能性を感じさせてくれました。

二次会の宴席にて、イギリスにおける“ヘンリー・パーセル”(17世紀バロック中期の音楽家)と“ビートルズ”の偉大さや、アメリカのテキサス・ブルースのミュージシャン“ジョニー・ウインターズ”やシカゴ・ブルースの“マディ・ウオーター”らの魅力を筆者に語ってくださった政太夫氏。和楽器というのは、“尺八”は僧侶、“琴”は公家や士族といったぐあいに身分と関連が強かったが、最も後に普及した“三味線”は庶民の楽器で、「いってみればエレキギターのようなもの」なのだそうです。ロックやジャズに進化していくブルースと邦楽の意外な接点を垣間みた気がしました。
実現は難しいが、深夜に終電が終わる頃から初めて始発が動く頃に終わるような説経節のライブをやってみたいとおっしゃる氏。「ねむっちゃってもいいんです。うとうとしていてふと目が覚めたらまだ芸能の中にいる、という安心感みたいな…そんなライブ」。
たとえば全段をとおしてやると6時間ぐらいかかっちゃうという“小栗判官”。あたかも壮大なワーグナーのオペラに浸るように、説経節のファンタジー世界にたっぷりと包まれる体験をしてみたいと思いました。       (事務局:細田秀明)


第12回 見世物学会総会
●平成22年11月28日(日曜日) ●東京、早稲田・小野講堂  ●時間;13時30分から

●特別講演会『説経節』 
ゲスト:説経節政太夫
パネラー:田之倉稔、西村太吉、(坂田春夫)
日本の『語り物芸能』の源流のひとつ『説経節』を現代につたえる
政太夫氏をお招きし、その系譜や特徴、現代の『節経節』についてなど
さまざまなお話を伺いながら、実演も交えて『節経節』の魅力に迫りました。

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